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束縛スル里

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ココロ

 生きている意味がない。






 世を騒がせた猟奇殺人犯は、犯行を始める数か月前には周囲にそう漏らしていたという。

「でもそんなの当たり前のことだよなあ」

 僕は二人に向かってそう言った。

「人生なんて所詮は自己満足なんだからさあ、生きている事に意味があるかなんて自分自身が決めればいいのであって、あの犯人みたいに意味がないと思えば意味がないし、逆に意味があると思えば意味があるんだ、自分の人生ってもんは。ネズとキリコもそう思うだろ?」

 二人は頷いた。僕は二人の反応に満足すると飲み物に手を付けて口元に運ぶ。人生なんて、自分の気持ち次第。ずっとそう思って生きてきたけど、生きている意味がない。その言葉を改めて聞いた時、僕の心に凄く印象に残った。なぜかは簡単だ。僕自身、最近はずっと生きている意味がない。そう思っていたからだ。

 僕はニートだ。その時点で、社会的に役に立っているわけでもなく、いわばお荷物的存在だ。友達も少ない。この二人だけはかろうじて友達でいてくれるが、小中高と共に汗を流し合った学友たちとの絆は蜘蛛の糸のように細かったらしい。今では切れてどこかに飛んでいってしまった……。

 そして、人生のパートナーと呼べる存在もいない。ニートの分際で一人の女性に思いを寄せるいうことにどうしても抵抗を覚えてしまう。男女平等が叫ばれる現代において時代錯誤的かもしれないが、収入もないのに女性と付き合うだなんて男としてあまりにも情けないと思う。せめて再就職すれば、胸を張って生きていけるようになるはずだ。彼女を作ることに対してもわだかまりは無くなるだろう。すべてはそうなってからだ。

 そう思って何か月が経ったろう。光は未だ差し込まない。

 頭を掻き毟りたくなる。

 何もかもがうまくいかない。そんなんだから、正直、何も楽しくない。今までの人生を思い返しても、楽しかった瞬間なんてほんのわずかしかない。いや、正確に言えば記憶に残っている事以上に何度も楽しい思いをしてきた。だから、楽しい事がまるでなかったというつもりはない。だけど、それ以上に、辛かった、嫌だった、悲しかった思い出だけが、積み重なって山になって、時々それが崩れて僕に襲い掛かってくるのだ。苦しい。僕はその度に何度も何度も苦しい思いをした。なんで過ぎ去った過去に何度も何度も苦しめられなくてはならないのだろう。楽しかった思い出は、思い返しても僕を幸せにしなかった。苦しかった思い出は、思い返すたびに僕の心を痛め付けた。きっと、今よりもっと歳をとって死ぬ間際まで、そんな苦しみだけが積み重なるような日々が続くのだろう。だとしたら、そんな僕に生きている意味があろうか。そんなの、生きている意味がない。

 だけど、僕は物事を悪いほうに悪いほうにと考える癖がある。そんな僕だからネガティブな事ばかりを考えてしまって日々を楽しく生きていくことが出来ないのだ。それくらいの自覚はある。

 だから、せめてかろうじて親友と呼べる二人に僕に生きている意味があるのか、問いかけることによって、そして、生きている意味がある。そう言ってもらえれば、僕のこんな人生も好転するような、そんな気がしているのだ。果てしなく他力本願な気もするけど、それでもたまには背中を押してもらったっていいじゃないか。人は一人では生きていけないのだから、他人に迷惑をかけるのが嫌な僕だって、もう手段を選んでいられない。二人に僕を肯定してもらう。たとえそれが思い込みに過ぎないとしても、この辛い現実を生きる糧になるのならそれでいいじゃないか。助けて下さい。昔流行った「世界の中心で愛を叫ぶ」みたいに。よくわからないけど、たぶん、そういうことなんだ。

 僕はごくりとつばを飲み込むと、意を決して二人に言った。


「僕にだって幸せになる権利はあるよな? 生きていたっていいんだよな? 二人にとって、僕は意味のある存在だよな?」


 二人は満面の笑みでうなずいてくれた。僕は思いっきり脱力する。安心した。やっぱり、僕だって生きて良いんだ。生きる意味があるんだ。二人が同意してくれれば、僕は生きていける。それだけで……。

 その時、二人はお互いの顔を見合わせると、ニヤ~っと笑った。


「だけどぉ……本当はぁ……」
「……。ノヴシゲだけは……」










「「生きている意味なんてないんだけどねっ!!」」







 きゃははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは



 二人がケタケタと笑う。
 僕は激怒した。



「うるせえんだよ人形共が!!!!!!」


















 ああ、生きている意味が、見つからないよ……。
 僕は泣きながら二人の首を抱きしめた。

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