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束縛スル島

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暑いですね…

バドです。
すっかり間が空いてしまいました…すみません(;´Д`)

発表会は終わったのですがまた来週から2週間ほど家を空けがちになるのでネタの更新は当分出来ないと思います…。
でも私が忙しい間に愚腐弟がFMSのネタを更新してくれてましたね。
どうしましょう?
次も私の方のFMSネタにすると、ペケ蔵の時と含めてFMS率が高くなってしまいますね…。
しかしその次に票を集めてるのが満月さんという、作者的には謎を多くしておきたいのでネタが難しいキャラwww
家を空ける間にちょっとどうするか考えておきますね…。
何かご意見があったらお聞かせ下さい(´∀`)


拍手お返しです

>匿名の者さま
私自身は最近幻滅することが続いて競馬熱があまり…な状態です('A`)
ただGIの時の競馬場の観客の一体感は感動するものがあると思いますので、いつかGIの時に開催競馬場に足を運んで頂きたいです!
馬券なんてトータルで500円程度しか賭けなくても充分楽しめると思いますよ。(ちなみに1点100円から買えます)
立ち絵のようなリアル人間を意識した絵だといくら表情を豊かに描こうと思っても私の画力だとなかなか不気味の谷を越えてくれないので、マンガのようにたくさん描かなきゃいけなくなる場所になると気が抜けてどうしてもマンガちっくな顔つきになってしまいます(´∀`;)
スルスルキャラに関しては実在してそうな感じにしたかったのでちょっと無理してリアルっぽくしました。
その辺の無理がたたって絵が安定しないという結果に…ゲフッ(´Д`;)

>花丸さま
おおおお!!こ、これは幸せそうなペケ蔵ときくちゃん…!!
ありがとうございますありがとうございます(´∀`*)
こんなほのぼのした瞬間があったらよかったですねえ…諸悪の根源は私ですが。
FMSの足が顔の上に…ということはもともと3人で川の字になって寝ていたのですか!?(゚∀゚)
なんでですかね…ロリコン犯罪者は絶対に許せないんですが、二次だと成人男性とょぅι゛ょの組み合わせが大好きです。
侍道2というバカゲーがあるのですが、そのデフォルト細目主人公と口のきけないょぅι゛ょのコンビとかほんと好きでした。
そんな私のツボを見通しましたね…フフフ

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変幻六花編BADENDその後 ~もしもゲスMSが一途だったら~ 公開致しました!

こんにちは。
愚腐弟です。

変幻六花編BADENDその後 ~もしもゲスMSが一途だったら~ を公開致しました!
内容は変幻六花編BADENDのその後のお話です。主にFMSくんが活躍?します。束縛スル里では異彩を放っていた(主にスケベな方向で)ゲスMSが実は一途だったら、というIFのお話です。またなんかキャラが違います。なんかキャラがブレブレだな・・・・・・。まあワイに技量がないからしゃあない。
実を言うと(というかブログ通り)最近はあまりやる気がなかったんですが、匿名の者さんの拍手コメントで「他の女性キャラ達に手出ししていないところは一途に見えます」という言葉に触発されて書いちゃいました。
変幻六花編なので誰得って感じですね。完全に俺得です。こまけぇことはいいんだよ! 同人なんだから! 俺に付いて来られるやつだけ付いて来いスタイルで行ってやらあ! 付いてきてくれてる方々には大変感謝してます! 本当にありがとうございますううううううううう!!!!!(迫真)
てか頭パーな俺が万人向け意識したら塵芥しか量産できないからしかたないね。
紙のゴミなら鼻ぐらいはかめるけど、データじゃそれもできないもんね。HDD潰しだね、たぶん。PC詳しくないけど。最近初めてグラボ入れて感動したわたしです、はい。3Dぬるぬる動きスギィ!!
ということで、暇な方は読んでやってください。

と、公開直前に読み返してみると、FMSなんかより満月さんの方がよっぽどゲスなことに気が付いた。
これじゃ満月五郎じゃなくて満ゲス五郎じゃねえかwwwwwww
・・・・・・すいませんでした('A`)



話は変わりますが、ゼロの使い魔を僕が敬愛するヤマグチノボルさんではなく、別のライターさんが書いて完結させるそうですね。
プロットを遺されていて、しかも物語を完結させてほしいというのがヤマグチノボルさんのご遺志らしいなので、喜ぶべき事なのかなと思います。
結末が非常に気になっていたので待ち遠しいです。
幸せなラストだと嬉しいなあ。お前が言うな!って感じですが。



拍手コメ返しです。

> ハーッドゲーマーあらし様
励ましのお言葉ありがとうございます!
文面がパッと見辛辣に見えてビビリましたw
ご指摘の通り、僕はマブラヴ厨なので、侵略者編はマブラヴオルタのパク・・・・・・オマージュとして製作しました。楽しんでいただけたのなら何よりです!
そうですよね!僕もおにゃの子になったら心も女性化して親友とイチャ展開が好きです!
変幻六花編の甘々な後日談は・・・・・・ネタは溜めているんですけど・・・・・・。
気が向いたら書くかもしれません。申し訳ないです (;´A`)


> 匿名の者様
需要あると言っていただけたので、ゲスMS編を一応書き終えました!楽しんでもらえたら嬉しいです。
天使○小生意気amazonでセットが結構安かったので買っちゃおうかと思ったのですが、今月はお金が厳しいので堪えました・・・・・・今度買って読んでみます!
柴○淳さんの月○浴聴いてみました!初めて聴いたのですが、歌声が綺麗な方ですね!
そうですね。ノヴシゲの精神世界では、降り注ぐ月明かりの下、ネズとずっと幸せな追いかけっこをしている。そして触れ合った時、わずかな違和感に気づいて涙を流してしまうのかもしれません。
なんかロマンチックでいいですね!

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変幻六花編BADENDその後 ~もしもゲスMSが一途だったら~ 後編









「起きるっす!! ノヴシゲさん!!」
 オレはいつまでも布団の中ですやすやと寝息を立てているノヴシゲさんを叩き起こすために布団を一気に剥いだ。もう十時を過ぎてしまっている。寝坊だ。
「・・・・・・さむい」
 ノヴシゲさんはそうつぶやいて、まるで胎児のように身体を縮めた。そりゃ寒いだろう。ノヴシゲさんはその身に何も纏っていないのだから。オレたちは毎日のように肌を重ねている。ノヴシゲさんが素っ裸なのはその名残だ。
 例のあざが白日の下に照らされ、オレは顔を歪める。ノヴシゲさんがうちに来てから何日も経っているのに、あざは未だに身体から消えることはない。見るたびに怒りがわき、不安になる・・・・・・こんなもの、さっさと消えて欲しい。いや、消えるべきだ。
「まったく、いつからこんなに朝寝坊するようになったんすか? さっさと起きないと大人のイタズラしちゃうっすよ? うひゃひゃ!!」
 最近、ノヴシゲさんは朝起きるのが遅くなってきた。というよりも、日が経つにつれ一日あたりの睡眠時間が増えているような気がする。新しい環境になって疲れが溜まっているのだろうか。
  それに、肌を触れ合わせるたびに、ノヴシゲさんの体温が少しずつ低くなっているような気がして・・・・・・それが嫌でしょうがない。首を掻き毟りたくなる ほど苦しい。それは、何よりも恐ろしい結末に繋がっているように思える。夜、行為が終わった後オレは布団の中で何度も震えた。
 ノヴシゲさんはのろのろと上半身を起こした。オレはノヴシゲさんの着替えを手伝うために、畳の上にひざをついて、着替えの入った籠に視線を動かし縁に手をかけて引き寄せた。
「起きたらちょっと遅いけど朝飯食って、いつものように散歩するっすよ」
「・・・・・・」
 あの焼きただれた残滓が再び目に入らないよう細心の注意を払いながら、散歩は何とか続けている。そうしなければ、近いうちに歩けなくなってしまうだろうという危機感。それでも、オレをあざ笑うかのようにノヴシゲさんの歩く速度はだんだん落ちてきていた。
「今度はどのコースにするっすかねえ。狭い村なんで、いいかげんレパートリーが・・・・・・」
 そう言いかけながら、オレは振り向いた。
「まーた泣いてんすか、ノヴシゲさん」
  ノヴシゲさんは、外を見ながら涙を流していた。またか! 若様のところにいる頃から時々涙を流していた事は知っていたが、この頃はその回数が増えていた。 この頃というよりも、一緒に散歩に行って、あの家を見た時からかもしれない。
 若様の力で、ノヴシゲさんはずっと幸せな夢を見ているはずなのに。それに綻びが出来てしまったのだろうか。
 オレは苦々しく思いつつあわてて口を開く。
「別になーんも寂しいことはないんすから、泣かなくても良いじゃないっすか。呼んでくれれば、このモリヤ様がすぐにでも飛んでくるっすよ! 見返りは当然いただくっすけどね。この世の中、ロハより高いものはないって言うじゃないっすか。うひゃひゃ!」
 そして無理やり笑顔を作りながらノヴシゲさんに服を着せていく。
「・・・・・・キンパチ」
「いやホントマジでモリヤっすから。オレはそんなダサ男じゃないっすから。頼むっすよマジでノヴシゲさん」
 ノヴシゲさんの小さなつぶやきにも、いちいち訂正しないと気が済まない。無視すればいいのだろうか。いや、それじゃ駄目だ。こうやって一回一回訂正していけば、いつかはノヴシゲさんがその柔らかい唇で「モリヤ」という名を紡いでくれるに違いない。
 服を着せてティッシュで涙を拭いてやっていると、チャイムが鳴った。どうせ宅配便か何かだろうと思って気にせずにいると、ふすまの外から声を掛けられる。
「失礼致します、坊ちゃま。若様がおこしになられたのですが」
 オレは舌打ちをした。何の用だっつの。
「・・・・・・あー、いちおー応接間に通しといてくれる?」
「かしこまりました」
 オレはばあやにそう告げると大きくため息をついた。顔も見たくねえけど、しゃあない。
「そんじゃさっさと追っ払ってきやすんで。オレがいないからって泣いたりしないで、おとなしく待ってるんすよ?」
 オレはノヴシゲさんの頬をなでる。反対側の頬を見ると、涙はいつの間にか止まっていたようだ。オレはホッとすると、立ち上がって応接間に向かった。

「サーセン、待たせました。ご無沙汰っす」
 若様はいつものようにフードを深くかぶりサングラスをかけた格好で、応接間の椅子に座っていた。若様は気安く片手を挙げて声を掛けてくる。
「どうもどうも。こちらこそご無沙汰しておりまして申し訳ありません。いやあ、新しいお紅さまにかまけていたら時間の経つのが早い早い! あなたのおかげで村は発展、わたくしも毎日が充実しておりますよ。はっはっは!」
 耳障りな笑い声だ。そんなどうでもいいことをわざわざ報告しに来たのだろうか。オレはテーブルを隔てた向かいの椅子に座ることなく口を開く。
「はあ、それはよかったっす。それで、なにかご用っすか?」
「まあまあ。そう焦らないで、とにかくお座りください」
 若様に促され、オレはしぶしぶ椅子に座る。長くなってはたまらない。早くノヴシゲさんと散歩に行きたい。若様はオレの様子を知ってか知らずでか、ゴホンと一つ咳払いした。
「さすがのわたくしも心配になって様子を見に来たのですよ。猿飛くんとお紅さまはうまくやっているのかとね」
「はあ」
 その時、応接間のドアがノックされ、ばあやがお茶を持ってやってきた。テーブルの上にお茶を置くと、若様は頭を下げる。そしてばあやは黙って退室して行った。
「これはわたくしが選びに選んで特別に取り寄せたお茶ですので、どうぞ飲んでみてください。驚きますよ~!」
「はあ。いただきます」
 オレは湯気が立っているお茶を手に取ると口をつける。若様がじっとこちらの反応をうかがっているようだったので、一つ頷いて見せてやった。
「うまいっす」
「そうでしょうそうでしょう! いやあこのお茶はですね、なんと熟成期間が・・・・・・」
 若様は自分の持ってきたお茶のウンチクを実に楽しそうに語りだした。オレは若様の話が右耳から左耳に通り抜けていくのを感じながら、うんうんと何度も頷いた。
 いつまで続くのかとイライラし始めた頃、若様はやっと本題に入ったようだった。
「それで、お紅さま・・・・・・ノヴシゲさんの具合はどうですか?」
 サングラスの奥の瞳が鈍く光る。
「具合・・・・・・っすか?」
 妙な言い方だな、と思った。ノヴシゲさんの体調が優れない事を知っているのだろうか?
「ええ・・・・・・ああ、あなたにはもう少し言葉を選ぶべきだったかもしれませんね。失敬失敬」
 オレはその物言いに引っかかりつつも、無表情を装う。若様は耳打ちをするように手を口元に添えて顔を寄せてくる。
「・・・・・・彼女、床上手でしょう? あなたもだいぶお楽しみになっているのではないかと思いましてね。彼女、何でも言う事を聞くでしょう? いやあ、あそこまでにするには苦労いたしましたよ、はっはっは」
 火薬に火がついたように、頭の中がカッとなる。ぶん殴りそうになるのを、オレはこぶしを思い切り握り締めて耐える。こいつをぶん殴ったら、今度はどんな恐ろしい罰を与えられるかわからない。
「ははは・・・・・・そっすね。最高っす」
「そうでしょうそうでしょう! いやあ、一度彼女と寝屋を共にすると、他の方ではなかなか満足できなくなってしまって困りモノなんですよね。今は新しいお紅さまを、お紅さまに相応しくするべく指導中なんですがね。まだまだ時間がかかりそうですねえ」
「そっすか。頑張って下さい」
 オレは顔に出さないよう全神経を集中させる。無理やりに笑顔を作る。それでも額には脂汗が滲んで身体の芯は燃え盛るように熱くなっている。
「それでふと彼女のことを思い出しまして。彼女はあなたとちゃんとうまくやれているのか、とね。何かあればわたくしが相談に乗りますので、なんでもおっしゃってください。なにしろ、わたくしは彼女のことを知り尽くしておりますからね・・・・・・ククク」
 なにが知り尽くしているだ! ふざけやがって!!
 オレは錆び付いた機械のように、ギギギという擬音を発しそうになるくらいぎこちない動きで、首を振った。
「ま、まさか! 若様にご相談できることなんて・・・・・・」
「嘘はいけませんよ猿飛君。わたくしとあなたとの仲じゃないですか。遠慮なんて水臭いですよ。さあ、何でもおっしゃってください」
 こうなってしまうと若様はオレが何か相談するまで帰らないだろう。何もないと言って押し通しても、若様は非常に機嫌を悪くする。何か言わないといけないのか・・・・・・。
 そうだ、いいことを思いついた。こいつがどうにもならなそうなことを相談して、解決策を提示できずに困る顔を見てほくそ笑むこととしよう。
「すいやせん、一つだけあるっす。実は、ノヴシゲさん、なんでかわかんないんすけど、オレが何もしてないのに時々泣くんすよね。うざったいんで早く泣き止ませたいんすけど、どうすればいいっすかね?」
「ああ、それですか! わたくしもそれには何度も嫌な思いをさせられたものです。ですが、実はですね、いい方法があるんですよ」
「え? そ、そうなんすか?」
 オレの予想とは違って、若様は早く言いたくて仕方がないといった雰囲気で身を乗り出してくる。正直興味があるので、オレは耳を澄まして答えを待った。若様は内緒話をするように、ここぞとばかりに声を潜めた。
「それはですね、根津くんのマネをすることなんですよ」
「・・・・・・は?」
 思わず妙な声が出てしまう。何かの聞き間違いかと思い、その言葉の意味を考えようと硬直していると、若様は喜々として同じ言葉を繰り返した。
「で すから、彼女が泣いてしまった時は、根津くんのモノマネをするんですよ。それこそ、口調をマネするくらいで構いません。それだけで彼女はあっという間に泣 き止み、こちらに甘えてくるのです。その後のまぐわいと言ったらもう・・・・・・燃え上がってすごい事になります。効果てきめんですから、ぜひ一度お試し あれ!」
 若様はなんだか偉そうに胸を張った。
 ・・・・・・あ、そっか。この人偉いんだったっけ。
「なるほどっ、それはすごいっす!! 今度オレに黙って泣いてやがったら早速試してみるっす!!」
「ええ! 本当に面白いくらいに効果がありますので。驚きますよ!」
 オレは手をパチパチと叩いてニヤニヤする。
「ネズのモノマネかあ。良いこと聞いちゃったっす!!」
「もっと早くお伝えしていれば良かったですね、申し訳ございませんでした。それでは、わたくしはそろそろおいとましますね」
 若様はそう言うと急に立ち上がった。藪蛇かもしれないとは思いつつ、オレは聞かずにはいられなかったので口を開く。
「お紅さま・・・・・・ノヴシゲさんの顔は見ていかないんすか?」
「ああ、それには及びません」
 短い言葉ではあるが、自分が棄てた女に今更会う必要はないといった意思が感じ取れた。
  正直、若様にノヴシゲさんとは会ってほしくはない。けど、いままでずっと世話になっていたくせに、まるで興味がないといった態度をとられるのも腹が立つ。 まあ、会わないと言ってくれたのだから気にしないことにする。眉毛ぐらいはぴくぴくと引きつってしまっているかもしれないが。
「わかったっす。それじゃ玄関までお送りするっす」
 オレも立ち上がってドアを開き、手振りで部屋の外を示した。
 若様は玄関で靴を履くと慌ただしく帰っていった。あの人はああ見えて忙しい。もしかしたら時間が押していたのかもしれない。ホント、わざわざご苦労さん。てかノヴシゲさんに会わないんなら電話で良かっただろ糞野郎。
 オレはノヴシゲさんの部屋に急ぎ足で戻った。
 ノヴシゲさんは、外を見ながら畳の上に腰を降ろしている。太陽は南東。差し込んだ光がノヴシゲさんの白髪を輝かせる。その横顔は、誰よりも綺麗で、誰よりも愛おしくて。
 オレはノヴシゲさんの傍らに立つ。
「・・・・・・キンパチ」
 そうつぶやく彼女は、大粒の涙を流していた。

 根津くんのマネをすることなんですよ。それだけで彼女はあっという間に泣き止み、こちらに甘えてくるのです。
 なるほどっ、それはすごいっす!! 今度オレに黙って泣いてやがったら早速試してみるっす!!

 糞と馬鹿の会話がフラッシュバックする。
 オレはグッと息を呑みこむと、しゃがみ込んで、ノヴシゲさんの頭を優しく抱いた。
「・・・・・・すげー待たせちゃってすいやせんでした、ノヴシゲさん。このモリヤ様が戻ったからには、泣くことなんてないっすよ」
「・・・・・・」
 彼女は、泣き止まない。
「寂しかったんですよね? オレがいなくて、怖かったんですよね? だけど今はオレがいるじゃないっすか。だから、もう泣かなくていいんすよ、ノヴシゲさん・・・・・・」
 ネズの野郎のマネなんかしてやるもんか。
死んでもやるもんか!! ノヴシゲさんには、オレを見てほしいんだ!! オレが一緒にいることで、安心してほしいんだ!! オレだけを見て、オレだけ想ってほしいんだ!! ネズに向けられた想いをオレが受け取るなんて嫌だ!! 絶対に嫌だ!!
「・・・・・・キンパチは?」
 それでも、想いは通じない。
 オレは心がズタズタになりそうなほどの痛みを感じながら、ノヴシゲさんが泣き疲れて眠ってしまうまで、懸命に慰め続けた。


 ノヴシゲさんの睡眠時間が明らかに長くなった。
  というのも、何日か周期に一日中眠り続けることがあるのだ。はじめてそうなった時の驚きと言ったらなかった。いつもの寝坊かなと思ったら、いつまでも待ち 続けても一向に目覚めなかったのだ。焦ったオレは名前を呼び掛けてみたり、肩を揺すったりしても全く起きる気配がなかった。
「そろそろ限界ですね」
 若様の、いつか聞いたそんな言葉が脳裏に浮かぶ。
 オレは急いで医者を呼んだ。診察の結果は「ただ寝ているだけ」だという。目覚める時を待つしかない。そもそもお紅さまの身体は普通の人間とは違う。正直に言えばどうなるかわからない。オレはそう言われた。
 ただ、寝ているだけ。
 胸に耳を当ててみると、心臓のほのかな鼓動を確かに感じた。なるほど、いつもの寝坊が日をまたいでいるようなものか。朝寝坊ここに極まれり。
 けれども、ほぼ微動だにせず、白磁の如く血の気が無い肌を持ち、触れればヒヤリと冷たいその身体はまるで死んでいるかのように思えて、オレは恐怖で震えた。
  本当にただ寝ているだけなのだろうか。本当に目覚めるのだろうか。もう二度と目覚めないのではないか。もう「限界」なのだろうか。そんな絶望にも等しい想 像が頭の中をぐるぐるとかきまわす。かき乱す。オレはどこかに出かけたり他の部屋に行ったりする気にもなれず、ずっとノヴシゲさんのそばで様子を眺め続け た。
 だから、ノヴシゲさんがまぶたを開けた時は。
 感極まって思い切り抱きしめてしまった。
 そして彼女は。
 またも泣く。

「・・・・・・またっすか」
 散歩をするためにオレが自室に戻って着替えている間に、ノヴシゲさんは泣き始めたらしい。
  外に顔を向けながら、透明で塩っ辛い雫を大きな瞳から垂らしている。なぜいつも外を見ているのだろう。それは、誰かを待ち続けているのではないか。きっと オレではない。はるか昔に肉塊となった、あの野郎を。これだけオレが想っているのに、あれだけ身体を重ねたというのに、それでもネズの野郎が良いのだろう か。
 そう思った瞬間、オレの中の、ずっと我慢していたなにがしかの緒が切れてしまった。
「泣いてんじゃねえよっ!!」
 オレは絶叫した。さすがのノヴシゲさんも少しだけ身を震わせると、更に大粒の涙を流し始めた。
  しまった・・・・・・やっちまった。そう思ってももう遅い。オレは、自分の想いが伝わらないばかりに、ノヴシゲさんに八つ当たりをしてしまった。やるせな い、激しい後悔が襲ってくる。そもそもこうなってしまったのは若様、いや・・・・・・この村と、ナガムシ様のせいなのだ。あとは、オレか。オレも悪いの だ。だから、オレがノヴシゲさんに対して怒るのはおかしなこと。
「・・・・・・・キンパチは?」
「モリヤっす。ネズはいねえっす」
 それでも言わずにはいられない。やっぱりノヴシゲさんにはオレを見てほしいのだ。ノヴシゲさんの想いはネズのためだけに向けられるものじゃないのだと。諦めたくないのだ。
 時間が、欲しい。もっと。
「そろそろ限界ですね」
 そんなわけがない!
 ほとんど歩けなくなっているとしても、泣く回数が増えているとしても、寝ている時間が多くなっているとしても、心臓の鼓動が小さくなっているとしても、食事する量が減っていっているとしても、身体がどんどん冷たくなっているとしても、ノヴシゲさんはまだ限界じゃない!!
 せめて一度。オレを見て、笑って、モリヤと言ってくれたら。
 そんな渇望を胸に、オレは、ノヴシゲさんに笑いかけ続けた。


「う~、さみぃ・・・・・・」
 思わず泣きが入る。廊下は冷え切っていて、スリッパを履いていなければ足元から凍りついて行くだろう。そんなふうに錯覚するほど寒かった。
「ばあやも暖房入れといてくれりゃあよかったのに・・・・・」
  事実、外では初雪が深々と降っている。降り始めで積もってはいないが、予報ではかなり積もるとのこと。雪が降りしきり積もり過ぎると、村と県道を結ぶ唯一 の道が塞がれて、車が通れなくなり、村が外から孤立してしまうこともある。そこまでは降らないでくれと祈りながら、オレは廊下を歩いている。
 心 臓はバクバクだ。というのも、今は朝八時過ぎ。記録更新する勢いで、ずっと目を覚まさないノヴシゲさんを無理やりにでも起こそうと決意を固め、顔を洗って きたところなのだ。目を覚ましているか、それとも寝たままなのか・・・・・・ここのところ三日ほど眠り続けている。その間に一睡もしていないオレは、さす がに眠くなってしまって、心を落ち着かせるためにも顔を洗いに行った。今日こそは目覚めるはず。そう信じていても、心臓が暴れるのを止めることが出来な い。どうしても最悪の事態を想像してしまって、緊張してしまう。
 大丈夫。根拠のないポジティブさはオレの持ち味。だから、大丈夫。
 オレは深呼吸を何度も繰り返して、ノヴシゲさんが寝ている部屋の襖を、意を決して一気に開いた。
「・・・・・・起きてたんすね、ノヴシゲさん」
  あれだけ深呼吸したのに、胸をなで下ろし、また大きく息をはいてしまった。ノヴシゲさんは雪の降る、よく手入れのされた中庭を眺めていた。オレはごしごし と両目を擦る。白く染まりつつある外の風景にノヴシゲさんの髪が同化して、その姿が消えていってしまったように見えたからだ。充血するほど目に気合を入れ て、目ん玉をひん剥いてノヴシゲさんの姿を捉える。
 うん、ノヴシゲさんはちゃんとここにいる。消えてなんていない。
「外、だれか来そうっすか? こんな雪の中じゃ、サンタだって外出するのをためらうんじゃないっすかね」
「・・・・・・きれい、だから」
「ノヴシゲさん?」
 おっ、と思った。今まではオレの言葉に応えてくれることはほとんどなかったから。なんだか良い傾向に思えてオレは鼻歌を歌いたくなった。
「たしかに綺麗っすねー。オレもガキん時は雪が降る度に興奮して外で暴れまわったもんっすけど。純粋だったんすね。今となっては雪なんて降られても煩わしいだけっすけどね。ああ、思い出すのはオヤジに雪かきをやらされまくった日々・・・・・・」
「・・・・・・うん」
「とはいえオレも雪は好きっす。キラキラしてて、小さな水晶みたいで、そんなのが空からいっぱい降ってきてさ。なんかドキドキするっす」
「・・・・・・」
 何言ってんだオレは。恥ずかしい。調子に乗ってしゃべりすぎだ。オレのクールなイメージが崩れる。
 ノヴシゲさんが雪に熱中している今のうちに布団を仕舞っちまおう。布団を出しっぱなしにしていると、知らず知らずのうちにノヴシゲさんが布団にもぐりこんでしまうからだ。
「・・・・・・さむい」
 敷布団を先に押し入れにしまったところで、ノヴシゲさんはそうつぶやいた。そら寒いだろう。ノヴシゲさんはいつの間にか窓を開け放っていた。暖気が逃げ出す。大量の冷気と雪の粒が入り込む。
「ちょ、なに窓開けてんすか!?」
「・・・・・・このほうがいい」
「いやいや、寒いんすよね? だったら窓閉めた方がいいっすよ」
「・・・・・・」
  ノヴシゲさんから無言の圧力を感じる。ノヴシゲさんは薄い寝巻を一枚羽織っているだけの状態で、縁側にお尻を着けて座っているので、相当な寒さを感じてい るはず。それでも窓を閉めたくないのか。こんなにはっきりと意思表示をするノヴシゲさんを見るのは初めてだった。オレは嬉しくなった。体調が快方に向かっ ているのではないかと。これなら、近いうちにオレを見てくれるようになるのではないかと! 
「・・・・・・はあ、ノヴシゲさんはわがままっすねえ! しょうがないっすけど、許してやるっす!」
 オレは毛布を掴むとノヴシゲさんの隣に座って、二人で一緒に毛布にくるまって、頭を寄せた。
「特別っすよ? オレがわがままをきく女なんて、この世に二人といな・・・・・・!?」
 オレは、絶句した。
 触れたノヴシゲさんの身体は、酷く冷たかった。ずっと薄着でいたからとか、外の冷気に触れていたからとか、そういう問題ではない。
 なにが、快方に向かっている、近いうちにオレを見てくれるようになる・・・・・・だ。
 そんな儚い希望を一発で打ち砕くような、絶望的な冷たさだった。心臓は動いているのだろうか。瞳もいつも以上に虚ろで。こんなにも冷たくて、心臓の鼓動さえも感じない。これが、本当に人間の身体なのだろうか?
 背筋が凍る。震えて、歯がガチガチと鳴りだす。なによりも恐れていたことが、すぐ目の前に迫っている・・・・・・。
 けど、まだノヴシゲさんは息をして、雪を見ているじゃないか!
 限りなく虚ろに近く、限りない美しさを湛えた瞳。その瞳は、目の前を降りしきる雪をきっと捉えて。命はまだここにある。
 そうだ、オレも雪を見よう。そうすれば、ノヴシゲさんと同じ時を、感覚を共有できる。オレは頬を寄せて、外に視線を向けた。
 雪が降っている。キラキラと、ゆらゆらと、光をチカチカと反射しながら地面へと舞い降りていく。まだ朝の陽ざしの熱が残っているのか、雪は地面や屋根などに触れて消え去っていく。それを見ていると、オレはなんだか感傷的になってしまった。
「・・・・・・そういえば若様がノヴシゲさんのこと雪みたいな人ですねって言ったっけ。あんな野郎に同意するのはシャクっすけど・・・・・・オレも、そう思うよ。ノヴシゲさん、雪みたいに白くて、儚くて、すげえ綺麗っすもん。それに・・・・・・」
 そして、雪のように、溶けてオレの前から消え去ってしまうのだろうか。
 オレは思わずノヴシゲさんを抱きしめていた。
「・・・・・・あったかい」
「オレも! ・・・・・・オレも、あったかいっす」
 嘘だ。
ノヴシゲさんの身体は限りなく冷たい。だから、せめてオレの熱を、命の灯火を少しでも与えられたら。そう思って、必死に抱きしめ続ける。
「・・・・・・」
「・・・・・・ノヴシゲさん」
 それでも、いつの間にかまぶたは閉じられていて。
「・・・・・・」
「・・・・・・ノヴシゲさん?」
 確実にその時は迫っているようだった。
「ノヴシゲさん!!」
 オレが悲鳴に近い声を上げると、ノヴシゲさんはゆっくりとまぶたを開いてくれた。
 くそ、いつになったらノヴシゲさんから暖かさを感じられるようになるんだ! これだけ抱きしめているのに! これだけオレの身体は熱いのに!!
 ノヴシゲさんは、弱々しく、ほのかに笑みを浮かべた。
「・・・・・・あったかいよ」
 よかった、オレの体温は、オレの想いはちゃんと伝わっている。そう思った。・・・・・・そう思っていた。ノヴシゲさんの、その言葉を聞くまでは。
「あったかいよ・・・・・・キンパチ」
 オレは泣きそうになった。
 やっぱりネズなのか・・・・・・? ネズの野郎じゃなきゃ駄目なのか?
 どうしようもなく悔しくて、どうしようもなく悲しくて、オレは叫んだ。
「キンパチじゃねえ!! オレはモリヤだ!!」
 ノヴシゲさんはその身をビクリと震わせた。そして、思いがけないことに、いつもの虚ろな瞳と無表情さを崩して、悲しさで表情を歪ませて、涙を流し始めた。
「の、ノヴシゲさん?」
「キンパチ・・・・・・キンパチ・・・・・・会いたいよ・・・・・・」
「ごめん、ノヴシゲさん!! オレは・・・・・・そんなつもりじゃ・・・・・・!」
「うぅ・・・・・・キンパチ。キンパチ・・・・・・」
 その涙を流すたびに、ノヴシゲさんの命が失われていくような気がして。
 事実、泣きながらもそのまぶたは再び閉じられていく。オレの体温が、ノヴシゲさんに伝わることは、もうないだろうか・・・・・・。
 ノヴシゲさんが、死ぬ。気が狂いそうになるほど冷酷な現実が、すぐ目の前にある。嫌だ・・・・・・ノヴシゲさんがいなくなるなんて。まだオレを見てくれてもいないのに!
 それでも、人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかは人それぞれだ。だとしたら、せめて死ぬ時ぐらいは笑っていてほしい。悲しい心を抱えたまま死ぬなんて、それほど恐ろしいことは無いじゃないか。だから。
 ノヴシゲさんに泣いて欲しくない。オレが近くにいるって伝えてあげたい。一人じゃないって伝えてあげたい。そうすれば、その悲しみが少しは和らぐのではないだろうか。
 だけど、オレの言葉で、ノヴシゲさんは本当に泣き止むのだろうか。今までは、オレが何を言っても泣き止んでくれることはなかったから、結局はほとぼりが冷めるのを、馬鹿みたいに待ち続けるだけだった。

「それはですね、根津くんのマネをすることなんですよ」

 若様の言葉が頭をよぎる。そうか、若様はネズのマネをすればノヴシゲさんは泣き止むと言っていた。じゃあ、ネズの・・・・・・あの野郎のマネさえすれば、ノヴシゲさんは・・・・・・。
 だけど、オレは今までずっと虚勢ばかり張って・・・・・・調子のいいことばかり言って・・・・・・嘘ばかりついてきて・・・・・・・人を傷つけてきて・・・・・・逃げてばかりで。それで、自分の好きなヤツの最期にまで嘘をついていいのか!?
 それでオレは納得できるのか? 嘘なんかで、ノヴシゲさんの悲しみを本当の意味で和らげることができるのか!? ネズはもういないんだぞ!? いないヤツを想い続けてなんの意味があるんだ!!
 そんなの欺瞞だ。逃げだ。オレは、やっぱりオレを見てほしい。オレなら、オレの想いがあれば本当の意味でノヴシゲさんの涙を止めることが出来るはずだ。
「そういえば・・・・・・オレはまだ、ノヴシゲさんにはっきりと気持ちを伝えたことがなかったっすね」
 オレは、ノヴシゲさんの心に届いてくれると信じて、想いを伝える。
「オ レは、ノヴシゲさんのことがずっと好きだったんす。ノヴシゲさんが、女の姿になってオレの前に現れた、その時から。へへっ、野郎の時は全く興味なんてな かったんすから勝手なもんっすよね。それから、ずっとノヴシゲさんだけ見てた。ネズと一緒にいる時も、ナガムシ様のものになっちまった時も、ずっと。ノヴ シゲさんを引き取ることが出来た時のオレの喜びがわかりますか? ホント、嬉しくて嬉しくてしょうがなかったっす。自分自身、こんなに好きだったのかって 思ったくらいっすから。だから・・・・・・もっと早く素直になっていれば、こんなことにはならなかったんすかね、ノヴシゲさん・・・・・・」
「・・・・・・」
「ノヴシゲさんにはオレがいるっす。オレはネズみたいにノヴシゲさんを置いて死んだりしない。オレの想いだって、ネズなんかには負けない!! だから、泣き止んで、オレを見て、笑ってくれ!! ノヴシゲさん!!」
 オレは振り絞るように叫んだ。
 けれども、オレの想いも虚しく、またしてもノヴシゲさんの頬を伝う涙。
「・・・・・・キンパチ」
 その口からは、またしてもあいつの名が紡がれて。オレの想いは、伝わらないのだと、わかってしまった。
 オレの想いは、オレの今までの行為は、ノヴシゲさんと一緒に過ごした時間は。
 すべてが無駄だったのだ。
「ノヴシゲさん・・・・・・」
 もう、いい。
 オレの気持ちもわからないこんな女、ネズの野郎がいないという恐怖に慄きながら、寒さに震えて一人で死んでいけばいいんだ。オレはもう知らねえ!!
「・・・・・・うぅ」
 ・・・・・・だけど。
 ノヴシゲさんは、泣きながら、震えながら。きっと怖いだろう。もうすぐで、息を止めて・・・・・・雪のごとく冷たくなって。胸に悲しみを抱えたまま。一人で、いなくなる。それで、オレは良いのか? それで後悔しないか?
 オレが好きなのは、泣いている顔じゃなくて・・・・・・やっぱり、笑っている顔で。
「・・・・・・チッ」
 良いはずなんか、無かった。オレって本当に馬鹿だなあ・・・・・・。どうしようもなくオレらしくない。本当の意味とか、欺瞞だとかそんなのはどうでもいい。真正面からぶつかって熱血するのはネズだけでいい。オレは、小物で、姑息だ。
 好きになった女には、たとえそれが嘘の言葉だとしても、裏切って騙していたとしても、それでも幸せになるようにするのがオレだろうが!
「・・・・・・。ノヴシゲ、俺はここにいるぞ」
 ちゃんとネズに似ているだろうか。あの野郎の口調は、嫌というくらい覚えている。あんなふうになれれば、ノヴシゲさんに振り向いてもらえるかもしれない。そんなふうに思って、羨望の眼差しで二人を見ていた。
「・・・・・・。そう泣くな。俺がいるだろ?」
 オレはノヴシゲさんの頭を撫でてやった。あいつは、こんなふうに柔らかく撫でていたはず。ああ、あいつはこうすることをノヴシゲさんから許されていたなんて。本当にうらやましいぜ、ネズの野郎・・・・・・。
 すると、ノヴシゲさんはほぼ閉じかけていたまぶたを開けて、オレを、戸惑うようなその瞳で、まっすぐに見つめてくる。オレも、正面からまっすぐに受け止める。
「・・・・・・キンパチ。やっと来てくれたの?」
「・・・・・・。ああ、遅れてすまなかったな」
 オレがそう言って微笑むと、ノヴシゲさんも笑った。その笑みは、本当に嬉しそうで。オレが今まで見た中でも、一番魅力的な笑顔で。その瞳も、虚ろではないような気がして。
  突然、ノヴシゲさんはオレにキスをしてくる。ノヴシゲさんからしてくれた、最初で、最後の。まるで永遠のような。そんな陳腐な表現を使って、この特別な瞬 間に花を添えたくなる。だけど、永遠・・・・・・そんなわけがない。オレとノヴシゲさんの唇が触れ合っている時間は、泣きたくなるくらい短かった。
「・・・・・・ありがとう」
 ノヴシゲさんは静かにささやくと、まぶたを閉じてしまった。まるで居眠りをするかのように、頭がこくりと落ちる。その表情はとても穏やかで、幸せそうに見えた。
 雪は降り続き、何もかもを白く染める。入り込んだ雪がノヴシゲさんの頬に触れた。その一粒の結晶は、いつまでたっても溶けることなく、頬に張り付いたまま美しい形を保っていた。
「・・・・・・。ノヴシゲ、まだ寒いか? それとも、もう寒くないか?」
 オレがいくら話し掛けても、返事をしてくれる事は、もうない。
 その唇には、身体には、オレの熱がまだ残っているかもしれない。だけど、そんな微熱じゃノヴシゲさんのためになりはしなかったのだ。
「ははは・・・・・・」
 思わず笑ってしまう。なんて、なんて単純なヤツなんだろう・・・・・・哀れなほどに。
 オレは呻くと両腕に力を込める。視界が、みるみる歪んでいく。

「そんな単純で・・・・・・いいのかよ。あんた、あれだけネズのことが好きだったくせに。オレのヘッタクソな演技なんかに騙されやがって、こんなに嬉しそうに笑って・・・・・・本当に良かったのかよ。なあ、応えてくれよ。ノヴシゲさん・・・・・・」

 その問いかけに答えるはずの人が、オレのために笑ってくれたことは、一度もなく、そして、これからも二度とないのだと思うと、オレは彼女がすでに抜け殻であると知りつつも、すがり付かずにはいられなかった。

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変幻六花編BADENDその後 ~もしもゲスMSが一途だったら~ 前編

※変幻六花編BAD END後のエピソードになりますのでクリアしていない方、変幻六花編が趣味じゃなかった方はご注意ください。
 知らない人のために:ゲスMSとは、変幻六花編のFMSがあまりにもゲスいので、くんさきさんの実況動画中に命名された名誉あるあだ名である。



























 この手に残る、吐きそうになるくらい嫌な感覚。凶器を持って、あいつを、殴り傷つけてしまったという忌々しい記憶。艶やかな黒髪に滲んでいく、真っ赤な液体。まるで一枚の絵画のように頭に焼きついてしまった、その一瞬・・・・・・。
 それを、一生忘れる事はないだろう。


「よくぞやりとげましたね、猿飛君。わたくしの新しいお紅さまとなられる方を、まさか本当に連れて来ていただけるとは。いやあ、正直あなたには少し荷が重いかなと思っていたのですがね・・・・・・大変失礼致しました。あなたのような優秀な部下がいてわたくしも鼻が高いですよ」
「そりゃそうっすよ! なんてったってオレ様っすから!! ・・・・・・約束通り、前のお紅さまはオレが貰っちゃっていいんすよね?」
「ええ、どうぞ。あなたになら喜んで差し上げますよ」
「よっしゃ!! そんじゃ連れて帰りやすんで」
「むしろ褒美があのような絞り粕で本当に良いのかと思えるほどです。おっしゃっていただければもっと良い褒美も与える事もできるのですよ? おっと、新しいお紅さまと言われても困ってしまうのですが・・・・・・ククク」
「いやあ、もうぜんぜん大丈夫っす! なんでオレもう行きますね!」
 オレはそう叫ぶと、ひらひらと手を振りがならナガムシ様に背を向けて歩き出す。
「・・・・・・せいぜい・・・・・・時間を、お楽しみください」
 背後でナガムシ様が何かつぶやいたような気がしたが、オレは特に気を留めることなく部屋を出た。
 いや、今はナガムシ様ではなく若様か?
 まあどっちでもいいか。糞をわざわざ区別する必要はない。

 オレは早歩きでお紅さま・・・・・・元お紅さまがいるはずの部屋へと向かう。どうにもこうにも気が逸ってしまうのを止めることが出来ない。心臓が早鐘を打つ。廊下は冷え切っていて、もうすぐで冬本番というのに額に汗がにじむ。
 オレはナガムシ様と、ある約束をしていた。新しい生け贄を連れて来れば、今のお紅さまはオレに譲ってもらえるという約束だ・・・・・・!!
 だから気が逸ってしまうのもしょうがない事だと思う。ナガムシ様への新しい生け贄とやらを、オレはやっとのことで連れて来ることが出来たのだから。
 新しい生け贄を連れて来るのは並大抵ではなかった。どうやって連れて来たのかなんて正直思い出したくもない。あんな強引な手段で良かったのかはわからないが、あとは若様が勝手にどうにかするだろう。
 これからはお紅さまの変わりに新しいお紅さまが犠牲となって、この辛気臭い村を続けて繁栄させていくのだろう。
 人さらいみたいな真似までして、こんなにも歪み切った村を本当に存続させなければならないのだろうか。
「・・・・・・まあその甘い汁を吸ってるオレに文句たれる資格はないっすけど」
 一人、オレはため息交じりにつぶやいた。


「シツレーしやーす!」
 その部屋に入った瞬間、オレは一瞬で目を奪われてしまう。赤い着物を身にまとい、真っ白な髪を携え、この世のものとは思えないほど可愛らしい容姿を持つ、一人の女の子に・・・・・・。
 女の子?
 いや、あまりにも作り物めいたその姿は、まるで人形のようだった。
「お紅さま・・・・・・」
 お紅さまは大きな竹椅子に座って背をもたれていた。ほとんど動くことなく、窓の外へと顔を向けている。オレは近寄ってしゃがみ込む。
 そして、お紅さまの顔をのぞき込んだ。その瞳は虚ろだ。しかし、オレの姿を視界に捉えたのか、わずかに笑みを浮かべる。
「・・・・・・キンパチ?」
 オレは思わず叫びそうになった。
「・・・・・・ネズの野郎なんかじゃないっすよ。さあ、オレの家に行くっすよ、お紅さま」
 オレは恐る恐るお紅さまの手を取ると、お紅さまは少しだけ身を震わせ、その瞳にわずかな光が灯り、ゆっくりとした動きでオレを見た。・・・・・・いや、オレを見たというよりも、視線を動かしたに過ぎない。
 その瞳は、かつての輝きは無くなってしまっている。濁ってしまっている。それでも・・・・・・やっぱり美しい。
 あの時・・・・・・はじめて見た時から、きっとオレはこいつに心を奪われていたんだと思う。

 吸い込まれそうなほど黒々とした美しい長髪、まるで子猫のように愛らしい声、白磁かと見まがうほどの白い肌、芸術品のように均整のとれた身体・・・・・・一部は非常に飛び出ているが・・・・・・そして、うるんだように輝く大きな瞳・・・・・・ころころと変わる表情、拗ねた顔、無邪気に笑って、想い人をまっすぐに見つめるそのまなざし。
 オレは、その全てが好きだったのかもしれない。

 お紅さまの黒かった長い髪は、儀式を何度も執り行ったせいで真っ白になってしまっている。儀式は、村に絶大な恩恵を与えるかわりに、こいつの身体へ途轍もない負担を強いるのだ・・・・・・生命力に満ち溢れていた漆黒の髪が、見る影もないくらいに真っ白にしてしまうほどの。
 それでも、それはまっさらな絹の糸のようで、どこか七色に輝いているようにも見えた。触れてみれば、手ですいてみるとさらさらと音が聞こえてきそうなほど細やかで、何ともいえない手触りが気持ち良く、いつまでも触れていたくなる。
 お紅さまが気持ちよさそうに目を細めたのを見て、オレは胸が高鳴るのを自覚する。意識は朧に、髪は漆黒から白亜へと。出会った時と変わり果てた姿であったとしても、やっぱり、オレはこいつのことが・・・・・・。
「失礼いたします。猿飛様、お紅さまお付の世話役たちの処遇なのですが・・・・・・」
「うるせえな!」
 突然の闖入者に、オレは怒鳴りつける。
「・・・・・・気がきかねえなぁ、大事な感動の再会シーンの最中なんだからさあ。出て行けよ、なあ。召使ごときが、目障りなんだよ!」
「は、はい。申し訳ございませんでした!」
 召使いはあわてて出て行った。邪魔しやがって。
 オレは舌打ちをすると改めてお紅さまに顔を向けた。急に大きな声を出したせいか、お紅さまの表情はこわばっているように見えた。オレはなるべく優しげな笑顔になるよう心がけて言った。
「さ、立ってほしいっすお紅さま。お引越しっす。お紅さまはついにオレのものになったんすから、同棲ってやつっす。昔のあんたは汚物に向けるような目でオレを見ていたけど、本当は照れくさかっただけなんすよね? わかってるんすよ、オレには。好きな相手には素直になれないって相場が決まってるっす!」
「・・・・・・」
 それは、どう考えても・・・・・・オレの事だ。
 お紅さまは立ち上がろうとするが、最近は足腰が弱っているようで、立ち上がろうとするその姿は見ているこっちが不安になるくらい弱々しい。
「もうすぐで立てなくなるかもしれませんねぇ」
 若様の言葉を思い出す。うるせえな、誰のせいだと思っているんだ!!
 オレはお紅さまの背中に手を添えてやりながら、手をゆっくりと引っ張ってやる。と、無事立ち上がる事ができたので、オレはほっと息を吐いた。
「・・・・・・ありがとう、キンパチ」
「・・・・・・さっきも言ったけどオレはそんなダッセー名前じゃないっすから。オレはFMS・・・・・・モリヤっす、モーリーヤー」
「・・・・・・?」
「小首傾げやがって、可愛いなぁ・・・・・・くそ」
 オレはお紅さまの手をしっかりと握り締めて歩き出した。
 今更ながら気が付く。その手が、驚くほど冷たいということに。

 今思うと、オレはなんて子供っぽかったのだろうと思う。お紅さまに対していやらしい言葉を使ってからかったり、無理やり身体を触ったり、ドスを聞かせた声で威圧して怯えさせたり・・・・・・それはまるで、気を引きたいがために好きな女の子に意地悪する糞ガキそのものだ。
 そんな大人の皮をかぶった糞ガキみたいなヤツに、村の権威を笠に着て威張り散らすようなヤツに、お紅さまが振り向いてくれるとオレは本当に思っていたのだろうか。
「着いたっすよお紅さま。ここがオレたちの愛の巣っす。愛の巣って死語っすかね? うひゃひゃ!」
「・・・・・・ん」

 どうしても、こいつにオレを見てほしかったのだ。ネズの方ばかり見ているこいつに、オレの方に振り向いて欲しかった。そして、オレはどうしてもこいつを手に入れたかった。
 だから、ネズを消そうとした・・・・・・オレの手で。
 だけどそれは失敗した。こいつが、ネズをかばったからだ。その時のことは、頭にずっとこびり付いている。
 こいつは、本気でネズの野郎のことが好きなのだとわかって、オレの心は怒り荒れ狂い、そして・・・・・・あふれんばかりの悲しみで打ちひしがれた。・・・・・・ヤケクソになってやったお紅さまへの行為を、若様に見咎められて重い罰を与えられてしまうほどに。
 お紅さまのために空けた部屋へ向かいながら、オレは自虐的に笑った。
「・・・・・・ホント、すんげー恐ろしい目にあわされるってわかってたのに、オレってば若様の前でよくあんな暴走したもんっすよね。オレは未だに覚えてるっすよ、お紅さまの胸の大きさと吸い付くような柔らかさを。うひゃひゃ! ・・・・・・はあ」
「・・・・・・」

 その後、ネズはナガムシ様によって殺され、こいつは晴れて「お紅さま」としてのお役目を果たす事となった・・・・・・・ナガムシ様によって心を壊された哀れな姿で。
 オレは、ナガムシ様を憎んだ。ナガムシ様がこいつの心を壊してしまったせいで、こいつの心の中には、ネズの居場所しかなくなってしまったのだから。ネズが死んだ今も、ネズしか見えなくなってしまったのだから。
 ・・・・・・いや、諦めるのはまだ早い。一緒に暮らしていれば、いつかオレのことを認識してくれるはずだ。オレの事を想ってくれるはずだ。
「だから・・・・・・お紅さま」
 オレたちはお紅さまのために用意しておいた部屋に入った。襖を開ければ、オレんちの広い中庭が見える。日当たりの良い、縁側のある和室だ。
 オレはお紅さまの両肩を抱き、まっすぐに見つめた。
「オレは・・・・・・」
「・・・・・・?」
 すると、お紅さまもオレを見つめてくる・・・・・・・焦点の定まらぬ瞳で。その瞳は、きっと、オレを見てはいないのだろう。
「・・・・・・へっ」
 オレは可笑しくなってお紅さまから両手を離し、顔をそらした。こんな風に正面から見つめるなんてオレらしくもない。そんな天然純情熱血野郎はネズだけで充分だ。
「・・・・・・そういえば、もうお紅さまじゃないんすよね、ノヴシゲさん。元男とはいえ、あんたみたいな姿のヤツをノヴシゲさんって男の名前で呼ぶのはやっぱ違和感バリバリっす。だけど、あんたはもうお紅さまじゃないんだ。だったら、ノヴシゲさんって呼ぶべきっすよね」
 オレはおどけて大げさな身振り手振りで頭を下げる。
「ようこそ、我が家へ! ノヴシゲさん。オレに任せてもらえれば、毎日を楽しく過ごせますんで、大いに期待しちゃってくださいっす!!」
「・・・・・・」
 その時、ノヴシゲさんが少しだけ笑ってくれたように思えたのは、気のせいだったのだろうか。
「そうと決まったら・・・・・・その服は脱いじゃいましょうか、ノヴシゲさん! あんたはもうお紅さまじゃないんすから、そんな辛気臭い着物を着てる理由なんてないっしょ、うへへ!! って、キャラが違うだろってか? あひゃひゃ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・はあ、ノリ突っ込みってのも虚しいもんすね、ノヴシゲさん」
 と言いつつオレはぼうっと突っ立っているノヴシゲさんの着物の帯をほどきにかかる。嫌なのだ。この着物を見ていると、怒りがこみ上げて来て仕方がない。どうしても若様の影がちらついてしまう。だから脱がす!
「変わりの服はもう用意してあるんすよ。いやあ、ノヴシゲさんには何を着せても似合いそうなんで、服を選ぶのが楽しくて仕方がなかったっす。なんかこう、もっと胸が強調されるような小さめのシャツとか着せてみたかったんすよね」
 まるで抵抗するそぶりを見せないノヴシゲさんに寂しさを覚えながら、オレは一人でしゃべり続ける。
 帯がほどける。赤い着物を素早く取り去ると、ノヴシゲさんは白い襦袢姿になる。生地が薄いので、肌が少しだけ透けていた。着物的にはこれが下着に当たるらしいが、オレにはそうは見えない形をしている。
「さあ、あとはこの紐を解いちゃえば裸になっちゃうっすよ~。いいんすかぁ? 抵抗しないと、オレは容赦なくひん剥いちゃう男っすよ? ま、抵抗してもひん剥いちゃうんすけどね、うひゃひゃ!」
「・・・・・・」
 それでもノヴシゲさんは何も言わないし、立ったままちっとも動こうとしない。さすがのオレもムッとして、本気で脱がしにかかる。
「ここんとこの紐を解けば~っと! そうすればほら、襟がはだけ・・・て・・・・・・」
 オレは息が止まる。視界が揺れる。目の前に、あれほど恋い焦がれていた、素晴らしく均整のとれた肢体がある。着物を内側から押し上げていた大きな胸は想像以上の美しく、まるで芸術品のようで、オレは瞬きをすることさえ忘れて食い入るように見つめてしまう。だけど・・・・・・。
 だけど・・・・・・なんで・・・・・・。
「なんでこんなに・・・・・・あざがあるんだよ!?」
 窓から入る夕日に照らされた白い肌、その絹のように滑らかな肌を穢しているかのように、青い大きなあざが身体の所々に出来ていた。
 信じられなかった。握りしめたこぶしがぶるぶると震える。耳元でギリっという音がする。それは、オレが歯を食いしばった音だとすぐに気が付く。
「ふざけんなよ・・・・・・! 若様・・・・・・・!!」
 オレは、すぐ近くにいたのに、あの野郎に・・・・・・こんなふうに扱われて・・・・・・!!
 オレは震える手で、おそるおそるあざに触れる。くすぐったいようで、ノヴシゲさんは身をよじりながら無邪気にも笑みを浮かべた。
 それが悲しくて、オレは気が付いたらノヴシゲさんの身体を思い切り抱きしめていた。はじめて抱きしめたノヴシゲさんの身体は、想像以上に小さくて、柔らかくて・・・・・・冷たかった。オレは両手の力を強めて・・・・・・嗚咽が漏れそうになるのを、泣いてしまいそうになるのを懸命にこらえる。好きな女の前で泣くなんて、オレらしくない。
 ・・・・・・ふとオレの背中を包み込むように、何かが触れた。それは、ノヴシゲさんの両手だった。そして、ノヴシゲさんは優しく微笑みながら、その小振りな唇を開いた。
「大丈夫、大丈夫だから・・・・・・泣かないで」
「・・・・・・っ!!」
 オレは堪えることが出来ずに、ノヴシゲさんをゆっくりと押し倒した。ノヴシゲさんの白い髪が、畳の上に大きく広がった。
触れ合っているところから、ノヴシゲさんの鼓動が伝わってくる。始めは微弱にしか伝わって来なかった脈動も、こうしているうちにだんだんと速く強く熱くなっていくのを感じた。ノヴシゲさんの頬が、ほのかに朱く染まっていく。それはきっと夕日のせいなんかじゃない。
「キンパチ・・・・・・うれしい」
「だからっ! ・・・・・・モリヤだって」
「・・・・・・?」
 言わせたくない!
ノヴシゲさんのその口から、またあいつの名前が出てきそうだったから・・・・・・オレは唇を塞いだ。こいつが、オレだけを見てくれていることを祈りながら。
 オレたちの初めてのキスは、甘くも儚く、悲しい苦い味がした。


 ノヴシゲさんの部屋でオレたちは朝食をとっていた。
 和テーブルをはさんでオレたちは向かい合っている。ノヴシゲさんは手元を見ながら、ゆっくり、もぐもぐと飯を食っている。相変わらず無表情だが、ほんわかとしてそこはかとなく幸せそうに見える。可愛い。例のクソッタレな着物じゃなくて、今日は黒いワンピースを着せているからか余計に可愛い。白と黒のモノクロームな対比が素晴らしい。
「ノヴシゲさんって、食べるの本当に好きっすよね」
「・・・・・・?」
 オレの言葉に反応して、ノヴシゲさんがこっちに顔を向ける。オレは思わず顔を逸らしてしまった。昨日の今日だから、ノヴシゲさんの顏を見るのは少しだけ恥ずかしい。・・・・・・クソッ、オレは初心な中学生かっての!
 昨日と言えば、ノヴシゲさんの身体に残るあざのこと。若様の話では、ノヴシゲさんはナガムシ様の力で半分は神のようになっているから、少しくらいの怪我ならすぐに治ってしまう、とのことだった。
 思い出したくもないが、オレがノヴシゲさんの頭につけてしまった傷は、普通の人間ではありえないくらいの速度で跡形もなく消え去ったので、その言葉に嘘はないと思う。
 いつ頃ついたあざなのかはわからないが、今日の朝もあざは残っていた。あの時の頭の傷の治る早さを考えれば、未だにあざが消えていないのは絶対におかしい。
「う・・・・・・」
 ドクリと心臓が大きく波打って、酷く嫌な予感が頭をよぎる。確かあの時、若様は・・・・・・。
「・・・・・・おいしい」
 オレはハッとして、声に導かれるようにして顔を上げた。そこには、変わらずもぐもぐとのんきに飯を食べ続けているノヴシゲさんのお姿。飯で頬を膨らませているその様子はまるで小動物のようにも見える。オレはため息をつくと、ティッシュを手に取った。
「そりゃうまいはずっすよ。なにしろうまい仕出し弁当を出す評判の良い店の板前を、わざわざ引き抜いてオレんちの料理人に据えたんすから。これで不味かったらあの料理人をオレの手で半殺しにしてるところっす! ・・・・・・ほら、口元に醤油っぽいのがついてるっすよ」
 オレは手を伸ばしてノヴシゲさんの口元を拭いてやる。オレがそうしている間、ノヴシゲさんはじっとしていた。たく、子供かっつーの。
「よし、綺麗になったっす」
 オレがそう言って笑うと、ノヴシゲさんも少しだけ微笑んでくれた。
「・・・・・・ありがとう、キンパチ」
 オレはガクッと首を落とす。が、すぐに頭を上げて言い返す。
「だーかーらー、モリヤですって。モリヤ。もしかして・・・・・・覚える気、ないっすか? って、あーあー・・・・・・テーブルの上にもぽろぽろこぼしてるじゃないっすか。まったく・・・・・・」
 オレは腰を浮かしてテーブルの上を布巾で拭き始める。飯粒に、漬物の人参の切れ端、焼き魚の小骨と身、納豆の粒など、ため息をつきたくなるほどのこぼれ具合だった。オレは律儀にもそれら一つ一つを拭き取っていった。
 よく考えたら、ここまでしなくても、あとで召使いに片づけさせりゃ良いだけなんだよなあ・・・・・・。
 ノヴシゲさんは、そんなオレを気にすることなく、ずずずっと、音を立てて味噌汁をすすっていた。クッソ、やっぱ可愛い。
「・・・・・・ま、いっか」
 オレは座り直すと、苦笑いしてノヴシゲさんを見つめた。そうしていると、今までに経験したことがないくらいに、胸の奥が暖かくなっていった。
 オレはニヤニヤしながら、ずっとその心地よさに浸り続けたのだった。


「さあ、ノヴシゲさん。散歩行くっすよ、散歩!!」
「・・・・・・?」
 オレが急に声を張り上げたせいか、ノヴシゲさんはキョトンとして緩やかにオレの方を向いてくる。わざわざテンションを上げてやってんのに、そう反応が悪いとまるでオレがバカみたいじゃないか。
 オレは縁側に座っているノヴシゲさんの腕をむんずと掴むと、無理やり立たせて玄関に向かう。その途中、ノヴシゲさんにコートを羽織らせた。外はもうすぐで冬本番、ちょっとした拍子に雪が降ってきても違和感がない程度には寒い。
「オレ、本当は寒いの苦手なんすよね・・・・・・」
 靴を履かせて、オレも靴を履いて外に出る。ヒンヤリとして澄んだ空気が、オレの鼻腔を通り抜ける。漏れ出た吐息がいっぺんに白くなって空気中に霧散する。都会と違って車が近くをほとんど走っていないせいで空気は澄み渡っているが、その分冷気が確実にオレたちの身体を凍てつかせる。きっと、散歩するには冷え込みすぎている。
 それでも、なんとなく重い足取りのノヴシゲさんを引っ張ってオレは歩いていく。ノヴシゲさんのこんな姿を見ていたら、歩かずにはいられない。
「そんなよちよち歩きだなんて、足腰が弱ってる証拠っす! もっと足を鍛えないとそのうち歩けなくなっちゃうっすよ! 今のままじゃ、髪も白いし、まるでおばあちゃんみたいっす! うひゃひゃ!!」
「・・・・・・」
 ちくりと胸が痛む。
 自分で言っておいてアレだが、実はシャレにならないことのような・・・・・・。
「・・・・・・だから。だから、これからは毎日散歩行くっすよ。えっ!? 一人で散歩するのは寂しいっすか? そこまで言うなら、しょうがねーからオレが付き合ってやってもいいっすよ」
「・・・・・・さむい」
「・・・・・・オレの台詞のことじゃないっすよね? てかノヴシゲさんって体温低いっすもんね。またオレが今日の夜にでも、いくらでも温めてあげるっすよ! いやあ、アツい夜でしたね、うひゃひゃ!!」
「・・・・・・」
 オレの下品な冗談を聞いても、ノヴシゲさんはやはり人形のように表情を変えない。普段のそんな姿からは想像できないほど、昨日の夜のノヴシゲさんは激しく求めてきたことを思い出す。 オレは正直驚いてしまった。あれほど淫らに乱れるとは思ってもみなかった。
 ・・・・・・若様に仕込まれたのだろうか。
 などと考えると、じりじりと胸の内を磨り潰されるような苦しみと悔しさが渦巻いて息が詰まる。顔の表皮が憎悪に呑み込まれて醜く歪んでいく。
 そして、行為中、ことさら妖艶に、甘くよがるような声で、何度も何度も、キンパチ、キンパチとつぶやくノヴシゲさんを見て、オレは自らの行為の虚しさを感じずにはいられなかった。
 若様がオレをあざ笑う声が聞こえる。
(その女は、わたくしが全てを知り尽くし、味わい尽くした、いわば食べカスのようなものです。だから言ったじゃないですか。あんなモノで、本当に良いのですかと・・・・・・ククク)
「・・・・・・いたい」
「あっ、す、すんやせん・・・・・・」
 知らず知らずのうちに手に力が入っていて、ノヴシゲさんの小さな手を強く握りしめてしまっていたようだった。急いで開放してノヴシゲさんの手を確認すると、少しだけ赤くなっていた。
 オレはノヴシゲさんの手を両手で挟み込んでスリスリと擦り合せる。オレ様のありがたい吐息を合わせるのも忘れない。こうすれば、痛みが和らいで少しは暖かくなるはず。
「・・・・・・あったかい、キンパチ」
「・・・・・・はぁ、モリヤなんですけど。よかったっすね、ノヴシゲさん」
 よし、赤くなくなったし、もう大丈夫だろう。
 ちょうどいい位置にあったので、オレはノヴシゲさんの頭をなでてやる。ノヴシゲさんは猫みたいに目を細めて気持ちよさそうに表情を緩ませた。ほっこりと長く息をはいている。可愛い。
 そういえば、ネズの野郎もよくノヴシゲさんの頭を・・・・・・。
「・・・・・・さあ、行くっすよノヴシゲさん」
 オレは撫でるのをやめてノヴシゲさんの手を掴んで歩き出す。もう二度と頭なんて撫でてやらねえ!
 それにしてもこの村は坂が多すぎる。隣の山にある寺に行く信者の為の宿場町だかなんだかしらないけど、こんな車もろくに入れないような辺鄙なところによく村を作ったもんだ。おかげで少し歩くのもダルいじゃないか。
「こんなところに人が集まるはずがないんすから、衰退するのは当然っすよね、ノヴシゲさん。それを胡散臭い神様に頼って無理やりに繁栄させようだなんていう根性が腐りきってるっす。本当に、こんな村なんて・・・・・・」
「こんにちは、猿飛様。お散歩ですか?」
 その声で振り向くと、そこには和服を着た年増女とガキの二人組が立っていた。めんどくせえヤツに見つかっちまった。オレは舌打ちをすると、ノヴシゲさんをオレの身体の影に隠しつつ言い放つ。
「あ? だからどうしたよ。オメーには関係ねーべ」
「うふふ、そのような言い方をせずともよいではありませんか。それと、大声でそのような悪口を言うものではないですよ、猿飛様。若様のお耳に入ったら大変です」
「うっせーな。てか暗にチクんぞっつってんのか? あ?」
「まさか! そんなつもりはありませんよ。ただ・・・・・・若様が癇癪を起こされると手が付けられなくなるもので。ちょっとした老婆心のつもりなのですけどね」
 余計なお世話だっつの。ああもうめんどくせえな。オレは年増(とガキ)を無視してこの場からさっさと逃げ出すことにした。
「それにしても猿飛様がお散歩とは珍しいですね・・・・・・あら?」
 が、年増女はノヴシゲさんの姿を目ざとく見つけてくる。その瞬間、年増女は絶句し、朗らかに笑っていた表情がたちまち曇り、まるでこいつに同情するかのような悲痛な面持ちとなる。
オレは、叫ばずにはいられなかった。
「・・・・・・良い人ぶってんじゃねえよ、クソババア! てめえは若様のやってる事見て見ぬ振りして、間接的に、いや、あの着物着せたりして悪事に直接加担してたくせに、こいつを憐れむような顔をしてんじゃねえよ偽善者がっ!! てめえにそんな顔する資格なんてねえんだよ、バァーカ!! 反吐が出んだよ!!」
「っ!! さ、猿飛様・・・・・・」
 オレは思いのままに言葉をぶつけると、ノヴシゲさんを抱きかかえて速攻でダッシュした。クソババアは更に悲しみの色を濃くして、それがまたオレを腹立たせる。
「じゃあなクソババア! ついてくんなよクソババア!!」
あんなクソババアが近くにいたら、せっかくの二人の甘い時間が台無しだ。オレは必死に走り続けた。
「はあ・・・・・・はあ・・・・・・」
 苦しくて息が詰まる。足がジンジンしてくる。オレの腕の中のノヴシゲさんはおとなしくしていてくれた。それが救いだった。だけど、思っていた以上にその身体は軽すぎて、まるで紙のように、雪のように、誰の手も届かないところへ飛んでいってしまいそうに思えて、オレは悲しくなった。
「はあ、ゴホッ!! ゲェ!! ・・・・・・ここまで来りゃあ、大丈夫だろ」
 オレはノヴシゲさんを慎重に降ろして、吐きそうなのを我慢して微笑みかけた。ノヴシゲさんはいつもと同じ・・・・・・いや、オレの心を見透かすように、色のない目で見つめてくる。
そう、ノヴシゲさんはわかっていたのだろう。オレもクソだってことを。
 何が悲しくなった・・・・・・だ。なにを同情しちゃってんだよ。オレだってあのクソババアと何ら変わりないじゃないか。
 オレは若様の計画にノリノリで乗っかって、こいつがナガムシ様の生け贄になるよう協力した! しかも、この手でこいつをぶん殴って・・・・・・それを踏まえればあのクソババアなんかよりもオレの方がずっと罪が重い。
「ははは、ノヴシゲさんが軽くて助かったっすよ。それにしても素晴らしい抱き心地っした! ホント癖になりそうっす! ホント今夜もまた抱いちゃおっかな? うひゃひゃ!!」
「・・・・・・」
 本当はこうやって、こいつにオレが笑いかけてやる資格なんてないんだ・・・・・・!
「さ、さあノヴシゲさん。帰るっすよ。そろそろ帰らないと日が暮れちゃいますからね。そうなったら寒すぎてさすがに散歩どころじゃないっすから」
 オレはノヴシゲさんの顔を見ていられず、手も引かずに一人で歩き出す。ある程度歩いたところで、ノヴシゲさんがちゃんと付いてきているかどうか確認するために振り向いた。
 しかしノヴシゲさんは先ほど地面に降ろした位置から全く動いておらず、オレを見ずにどこか見当違いの方向を見ていた。オレはため息をつくと、ノヴシゲさんの元へと戻り始める。
「駄目じゃないっすかノヴシゲさん、ちゃんと付いてこないと。迷子になっちゃうっすよ?」
 オレが声をかけてもノヴシゲさんはピクリともせず、突っ立ったまま同じ方角を見続けている。オレは、何故か胸が騒いだ。何かあるのかと思い、オレはノヴシゲさんに並び立って同じ方角を眺めた。
「・・・・・・あれは」
 黒く焼き焦げた物体。屋根は崩れ落ち、壁がほとんどなくなり、むき出しになったいくつもの黒ずんだ柱が虚しく立っていた。それはかつて炎に蹂躙されたのだ。そして裏切り者の末路として目せしめのために放置され続けている、一軒の家。
 ノヴシゲさんは何も言わず、ただそれを見つめている・・・・・・。
「駄目っす、ノヴシゲさんっ!!」
 オレはノヴシゲさんを抱き上げると、またしても逃げ出した。
 逃げる、逃げてばかりだ。さっきのクソババアからも、自分自身の罪からも、若様からも、ノヴシゲさんの身体の状態についても、何もかもから逃げ続けている。あれがあの野郎の家だったなんて、わかるはずがないと思いながらも、現実にオレはあそこから逃げ出してしまったのだ。
 オレの両腕から伝わるノヴシゲさんの体温は冷たい。その身体は、羽のように軽い。オレはノヴシゲさんがオレの元から消え去ってしまわないように、力の限り抱きしめた。
「・・・・・・雨?」
 オレの頬に触れる一つの雫。空を仰ぎ見ても雲一つなく、沈みかけた太陽が人も空も大地も赤く染め上げている。
「・・・・・・キ、ンパチ・・・・・・どこ?」
 オレは、その雫がどこから生まれたのか、それを考えることすら逃げ出して・・・・・・赤い、あの儀式を象徴するような色から逃れたくて、ただただ懸命に走り続けた。

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穴山誕生日




よろしい、ならばふんどs(まだやってる)


ネタアンケートに1票も入ってないので漢らしい大破を見せてもらいました。
何故だ…穴山さん人気無いのか…?
でも穴山ネタを書くとしたら確実に競馬関連になるから知らない人には微妙かもしれませんね('A`)


コメントへのお返事は落ち着いてからにさせて頂きますスミマセン(´;ω;`)
でも近々愚腐弟がゲスMSの小ネタをうpしてくれそうです!




ここんとこ万単位で予想外の出費がかさんでるから相変わらず新しいスキャナー買えません…。
アナログ人間なのでデスクトップ上で下絵を描くとか出来んのです…目が疲れるし…感覚掴めないし…。

そんなわけで、前にパワプロアプリでスルスルキャラチームを作った流れで突然の野球回漫画を描こうと思ったんだけど頓挫しました。
せっかくなので未完成品をちょっとだけ貼っておきます。




白寿島へやってきた一同…

そこへ、宇宙からの侵略者が、屈強な男たちが固い肌色の棒を手で握りしめ力強く速く振り、白いものを柵より遠くに飛ばして点を入れるスポーツ…つまりやきうで、地球を賭けた勝負を挑んできた…






150キロ超の剛速球投手だったが、チームメイトの不祥事により甲子園を逃し、やさぐれたまま野球をやめ大学生となったノヴシゲ。
そんなノヴシゲに再び球(意味深)を握らせた女房役ネズ。




そしてやきう未経験者を含む即席スルスルチームを徹底的な頭脳野球で導くキリコ監督。




……っていうのを描こうと思った(´・ω・`)




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